我々は核膜内膜蛋白質MAN1が、骨形成因子(BMP)からのシグナルを仲介するSmad1/5/8と結合することによってBMP経路を抑制し、神経化に関わることをアフリカツメガエルの系を用いて明らかにしてきた。本年度は、MAN1のマウス発生過程での機能を調べるために、MAN1遺伝子が「トラップ」されたES細胞からMAN1欠損マウスを作製し、その解析を主に行った。まず、ヘテロ変異マウスでX-gal染色を行い、発生過程におけるMAN1の発現パターンを調べた。その結果、MAN1は6.5日目胚ではノードに、7.5日目胚では原条や尿膜に、10日目胚では、中枢神経系、鰓弓、膵臓原基、心球などに強く発現することがわかった。ヘテロ変異マウスは正常に発育したが、ホモ変異胚は胎生10.5日前後で致死となった。ホモ変異胚における体軸形成、神経形成の異常の有無を、種々のマーカーを用いて全胚in situハイブリダイゼーション法により検討した結果、ホモ変異胚は野生型胚に比べ著しい発育不全を示したものの、体軸の形成、神経組織のパターン形成に顕著な異常は認められなかった。一方、胎生10.5日のホモ変異胚では、原始血管網の形成は見られたが、成熟した血管の形成は認められず、血管新生過程の異常が胎生致死の主たる原因であると考えられた(投稿準備中)。MAN1の血管内皮細胞の増殖と移動に対する影響、増殖因子に対する応答性を細胞レベルで検証するために、RNAi法によりMAN1の機能を阻害した血管内皮細胞、及びポリオーマ・ミドルT抗原を用いてホモ変異胚由来の血管内皮細胞株を樹立した。これと平行して、組織特異的MAN1欠損マウスの作製を開始し、ベクターの作製とES細胞のスクリーニングのための条件検討まで終了した。また、MAN1結合蛋白のスクリーニングを行い、複数の結合蛋白の候補を得た。
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