我々がBMP経路の抑制因子として見出した核膜内膜蛋白質Man1は、最近になり、少なくとも培養細胞レベルではTGF-β/activin/noda1経路を抑制する因子でもあることが明らかになってきた。本研究では、in vivoにおけるMan1の役割を調べるために、Man1欠損マウスの解析を行い、昨年度は、ホモ変異胚は胎生10.5日前後に致死となること、その原因として血管新生の異常が考えられることを報告した。本年度は、この血管新生の異常が起こるメカニズムについて検討し、次のことを明らかにした。1)血管内皮特異的PECAM-1染色により、Man1欠損胚では原始血管網から成熟した血管ができるリモデリングが起こらない。2)Man1欠損胚では、BMP-Smad1/5経路の活性は野性型とほとんど変わらなかったのに対し、TGFβ1-Smad2/3経路が異常に亢進していた。3)TGFβ1-Smad2/3経路の下流のフィブロネクチン(FN)の発現が上昇し、免疫組織染色においてFNの異所性の沈着が血管周囲を含む胚全体にわたって認められた。4)Man1欠損胚では、平滑筋細胞の血管周囲へのリクルートの異常が認められた。以上の結果から、Man1はTGFβ1-Smad2/3経路を介して血管のリモデリングを制御していることが明らかになり、核膜内膜蛋白の全く新しい機能を見出すことができた。一方、培養細胞レベルではMan1の機能阻害により、BMP、TGFβ1双方に対する反応性が高まるのに対し、Man1欠損胚では、本研究開始時の予想に反し、Smad1/5経路に対するSmad2/3経路の優位性が認められた。これは、生体内におけるBMP経路とTGFβ1/Noda1経路とアンタゴニズム(拮抗作用)の存在を示唆しており、そのメカニズムの解明は今後の重要な課題である。
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