研究概要 |
キノコ体は、節足動物の脳において見られる発達した神経構造であり、学習・記憶・認知などの多様な高次機能の中枢である。また、dunce, rutabaga等の学習記憶遺伝子の主要な発現部位である。ショウジョウバエ成虫のキノコ体は、総数約2500個の神経細胞から構成されているが、そのすべてがわずか4個の幹細胞の継続的な分裂により生み出される。我々は、これまでに、ショウジョウバエPax6相同遺伝子であるeyelessとtwin of eyelessが、キノコ体神経細胞で高レベルで発現しており、これらの遺伝子の変異体ではキノコ体神経構造の形成が著しく阻害されることを報告してきた。これらの二つのPax6遺伝子は、ショウジョウバエでは複眼形成のマスターコントロール遺伝子とし機能する遺伝子であり、複眼形成過程では数千の下流遺伝子の発現を統合的に制御する能力があることが知られている。さらに、eyeless遺伝子発現制御についての我々の解析から、キノコ体では複眼とは異なるエンハンサー配列がその発現を制御している事が明らかにされた。これらの結果は、キノコ体では独自の遺伝子制御ネットワークが機能していることを示唆しているが、その機構はほとんど解明されていない。キノコ体の形成と機能を支える遺伝子網をより包括的に理解するために、我々は、ショウジョウバエ全ゲノムを網羅するマイクロアレーを用い、成虫のキノコ体で発現する遺伝子の体系的な同定を行い、多数の遺伝子を同定してきた。本年度は、これらの遺伝子のショウジョウバエ脳における発現パターンをin situ hybridizationにより明らかにした。さらに、RNA干渉法によりキノコ体形成における機能的重要性の検討を行い、神経構造の形成を制御する多くの遺伝子を明らかにした。
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