研究課題
脊椎動物はその循環器系として閉鎖血管系とリンパ系を持ち、酸素や栄養の供給と老廃物の廃棄ならびに末梢組織からの水分や異物の吸収を行っている。個体発生において、これらの血管網は全身のほとんど全ての組織の形態形成にも重要な役割を果たしており、血管発生機構の解明は個体発生を理解する上で重要課題である。血管系は内層の血管内皮細胞とその周囲の壁細胞(血管平滑筋細胞または周皮細胞)からなり、リンパ系は主にリンパ管内皮細胞からなる。近年、血管内皮細胞と平滑筋細胞が胚性幹(ES)細胞由来の血管内皮前駆細胞から分化することが示された。また発生学的な解析によりリンパ管は血管(静脈)から発芽する形で形成してくるという説が提唱されている。以上から分化した血管内皮は安定な構造ではなくリンパ管内皮細胞へと再分化する能力を持つ動的な構造であることが予想される。そこで本研究において申請者はES細胞からの血管分化系を用いて、血管内皮細胞がリンパ管内皮細胞などへと分化するダイナミクスを司る機構を、分子生物学的・生化学的なレベルでの解明を試みる。本年度は主にProx1に焦点を当てて解析を進めた。近年の発生生物学の知見によりリンパ管が静脈から分化する過程においてまずLYVE-1というリンパ管マーカーが発現し、続いてLYVE-1発現領域の一部に発現するProx1というホメオボックス転写因子がさまざまな遺伝子発現の調節をすることによりリンパ管内皮前駆細胞が分化することが示されている。血管内皮細胞からリンパ管内皮細胞への分化におけるProx1の役割を検討するために、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)にアデノウイルスによりProx1を発現させて、その効果を分子生物学的、細胞生物学的手法を用いて解析した。リンパ管内皮細胞マーカーであるVEGFR-3とPodoplaninの発現が亢進し、血管内皮細胞マーカーであるVEGFR-2とVE-cadherinの発現が減少した。またProx1によりHUVECsの増殖とVEGF-Cに対する走化性が亢進した。リンパ管の発生においてProx1陽性細胞が静脈から発芽し、VEGF-Cへと遊走する現象が観察される。以上の結果からProx1は遺伝子発現調節を介して細胞の増殖とVEGF-Cへの遊走能を亢進させることによりリンパ管発生を進めることが示唆された。
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