研究概要 |
発生過程における基本的なメカニズムの1つは、モルフォゲン・シグナルによる位置特異的な転写因子群の発現の誘導による領域の区画化である。本研究では、ショウジョウバエの成虫肢の発生過程をモデルシステムとして、その具体的なメカニズムや各転写因子の下流についての解明を目指して研究した結果、以下の事を明らかにした。 1)ショウジョウバエの肢の先端部分である先付節と付節領域は、aristaless, clawless, Lim1とBarといったホメオボックス遺伝子間の複雑な相互発現制御作用によって確立・維持される。昨年度までに、マイクロアレイ解析から先付節及び第5付節で発現する事が分かった、胚期の気管形成を支配するbHLH-PASタンパク質をコードするtrachealessは、aristaless/clawless/Lim1とBarの間の相互発現制御機構が正確に働くために必要である事を明らかした。今年度は、trachealessの機能解析をさらに詳細に行い、trachealessはもう一つのbHLH-PASタンパク質をコードするtangoと協調的に働いている事、先付節ではBarの発現を負に付節では正に制御するという、二つの領域にまたがりながらそれぞれの領域で反対の機能を果たす事により、先付節/付節領域の正確な境界形成を行っている事を明らかにした。 2)3齢幼虫後期で第5付節特異的に発現することが知られているホメオボックス遺伝子nubbinについての解析から、nubbinは最初はBarの発現領域と先付節を含む広い領域で発現しているが、発生と共にその発現が第5付節に限局される事、先付節での発現の抑制はLim1による事、nubbinはBarの発現を正に制御している事、などが明らかとなり、先付節/付節間の領域化には想像以上に様々な転写因子の相互発現制御機構が重要である事が分かってきた。
|