研究概要 |
シクリッドの顎部多様化の遺伝子解析を行う目的でこれまでに決定したアフリカ、ビクトリア湖産シクリッド2種(Haplochromis chilotes, Haplochromis"redtailsheller")のcDNA塩基配列の解析を行った。塩基配列比較からは今回用いたシクリッド2種の表現型に違いに結びつく遺伝変異は検出できなかったが、種内・種間での塩基多型の解析を行ったところ、H.chilotesにおいては0.0054/site、H."Redtailsheller"においては0.0047/site、の多型頻度が、種間においては0.0031/siteの遺伝的距離が算出された。これらの数値から、今回用いたシクリッド2種の遺伝的多様度は約89万年にさかのぼることが算出された。今回の解析は、これまでに報告があったビクトリア湖産シクリッドの遺伝的多様度を示す数値と一致するものであったが、これまでに大規模に行った例はなく、シクリッドが短期間に爆発的多様化を起こした事を強く裏付けるものである。魚類の顎部形成に関しては、ゼブラフィッシュでの変異体の解析などから遺伝子発現のスキームに関する報告がある。一方、シクリッドの形態の多様化に関しては、ゼブラフィッシュに見られるツールキット遺伝子の発現に変化があるのか、あるいはこれに関連する遺伝子の発現の変化により最終的にシクリッドの骨格の多様化が生じているのか、については全く情報が得られていないのが現状である。我々は、昨年度よりシクリッドの一種であるオレオクロミスを用いた顎部骨格形成の解析を開始し、本年度はその膜性骨化過程に発現する遺伝子を約200種類に絞り込んだ。現在、それら遺伝子の発現様式と共に、promoter領域の解析による共通認識配列の単離を試みている。
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