肝臓の内胚葉上皮は、成熟肝細胞と、門脈に沿って樹枝状に走る胆管を構成する上皮細胞である。これらは両方とも胎児期に、肝芽細胞から分化する。本研究では、門脈域に限局した胆管形成機構を明らかにするため、成熟肝細胞への分化が抑制されると同時に、胆管様構造が肝臓内に多数形成されるC/EBPα遺伝子欠失マウスを用い、門脈を起点とした胆管形成シグナルと新規制御因子を解析する。C/EBPαは肝特異遺伝子の転写に関わる転写因子で、胆管上皮細胞の分化過程では発現が抑制される。本年度は、C/EBPα遺伝子欠失マウス胎児肝臓において、胆管形成系で働くと報告のある遺伝子群(HNF6、HNF1β、jagged1、notch2等)の発現をin situ hybridization法により解析し、C/EBPαとの上流下流関係を明らかにした。 HNF6、HNF1β、jagged1、notch2遺伝子いずれも、正常の胆管形成過程では、肝芽細胞の多くでまず弱く発現されたが、胆管形成の開始と同時に、胆管上皮細胞に分化する門脈周囲の肝芽細胞における発現が亢進し、成熟肝細胞になる細胞集団では発現が低下した。遺伝子欠失マウスにおけるこれらの遺伝子の発現については、肝臓全体の、成熟肝細胞になる肝芽細胞で発現が中程度にみられ続け、しかも門脈域の胆管上皮細胞へと分化する細胞ではさらに強く発現された。これらの結果は、HNF6、HNF1β、jagged1、notch2がC/EBPαの下流に位置し、C/EBPαの発現がないと肝実質部の細胞でも発現上昇に至ることを示唆している。一方、胆管上皮細胞マーカーである各種基底膜抗原等は、遺伝子欠失マウスでも、実質部の成熟肝細胞に分化するもので発現されることはなかったので、これらの胆管上皮細胞マーカー遺伝子はC/EBPαの発現抑制にはじまるカスケードとは別経路に位置する。
|