肝臓の内胚葉上皮は、成熟肝細胞と、門脈に沿って樹枝状に走る胆管を構成する上皮細胞である。これらは両方とも胎児期に、肝芽細胞から分化する。本研究では、門脈域に限局した胆管形成機構を明らかにするため、成熟肝細胞への分化が抑制されると同時に、偽腺管構造が肝臓内に多数形成されるC/EBPα遺伝子欠失マウスを用い、門脈を起点とした胆管形成シグナルと新規制御因子を解析する。C/EBPαは肝特異遺伝子の転写に関わる転写因子で、胆管上皮細胞の分化過程では発現が抑制される。本年度は、肝臓内の血管系(門脈、肝静脈、類洞、肝動脈)の発生分化をギャップ結合タンパク質であるコネキシン37、40の発現に注目して免疫組織化学的に解析した。その結果、コネキシン37と40は肝臓原基形成直後のE10.5-11.5から、門脈内皮と肝動脈内皮で特異的に発現することを見い出した。これは、門脈ならびに肝動脈内皮の分化が肝臓発生のごく初期より既におこっていることを示唆している。門脈内皮や肝動脈内皮における遺伝子発現の違いが、門脈域に限局した胆管形成につながる可能性が高い。またC/EBPα遺伝子欠失マウス肝臓において形態的に胆管といえる管が門脈域に本当に形成されているかさらに詳細に調べた。その結果、正常な管の形態をとる胆管はあまり観察されなかった(Development、改訂中)。そして門脈域に分化した胆管上皮細胞は、肝実質部にある、本来肝細胞になる運命であった肝細胞様細胞(偽腺管構造をつくる)と多くの場合つながり、分離した管を作ることはなかった。この結果から、ヌル型の場合、肝細胞様細胞の成熟化がおこらないことで、門脈域胆管上皮細胞は肝実質部から分離できず、管という形態を取れないのではないかと考えた。つまり肝細胞の成熟化と肝内胆管形成とは密接にカップルしている可能性が高い。
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