研究概要 |
胚発生のはじめにおこる細胞の分化は、内部細胞塊のエピブラストへの分化である。このエピブラストへの分化には、原始内胚葉が構築する基底膜が必要である。エピブラストへの分化誘導において基底膜がどのような役割を果たしているかを明らかにするため、基底膜を形成できないラミニンγ1-/-ES細胞をリバプール大学・Edgar博士より入手し、野生型ES細胞との間で遺伝子発現プロファイルの遠いをDNA microarrayを用いて解析した。その結果、基底膜を形成できないラミニンγ1-/- ES細胞では、α-smooth muscle actin,vimentin,fibronectin、など、上皮-間充織転換(epithelial-mesenchymal transition;EMTと以下省略)に関わる遺伝子の発現が増加していることを見いだした。EMTを制御する転写因子SlugとTwistの発現を野生型ES細胞とラミニンγ1-/-ES細胞とで比較した結果、予想通り、Slugの発現が後者で著明に増加していることが判明した。また、野生型ES細胞から胚様体(embryoid body)を形成させる際、SlugやTwist遺伝子を強制発現させると、エピブラストの形成が阻害された。以上の結果は、基底膜がないと内部細胞塊がエピブラストに分化できず、中胚葉に分化してしまうことを示している。実際、中胚葉マーカーであるBrachyuryの発現を野生型ES細胞とラミニンγ1-/-ES細胞に胚葉体を作らせて比較した結果、後者でBrachyuryの発現が著明に誘導されていた。これらの結果は、原始内胚葉が構築する基底膜への接着によって内部細胞塊の中胚葉への分化が抑制され、エピブラストへの分化が担保されることを強く示唆している。
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