哺乳動物の発生初期において受精卵は分化全能性を保ったまま卵割を繰り返す。初めての細胞運命決定は桑実胚から胚盤胞への過程で起こる。すなわち細胞は分化細胞である栄養外胚葉もしくは分化多能性を維持する内部細胞塊へと変化する。内部細胞塊においては引き続き2回目の運命決定が起こり、細胞は原始内胚葉へと分化するか、原始外胚葉(エピブラスト)として分化多能性を維持する。発生初期において分化多能性が維持されることがその後の胚発生において必要不可欠であるが、その分子機構はほとんどわかっていない。胚性幹細胞(ES細胞)は胚盤飽に由来する幹細胞で、分化多能性を維持したまま、半永久的に増殖することから、分化多能性の維持機構を研究するための最適の材料となる。これまで、ホメオボックス転写因子Nanogは分化多能性の維持に必須であることを報告した。本研究の目的はNanogの発現を規定する上流因子、Nanogと複合体を形成する蛋白質因子、そしてNanogにより転写調節される標的遺伝子を同定することである。 1.Nanogの生体における発現様式の解析 Nanogの遺伝子座にβガラクトシダーゼとネオマイシン耐性遺伝子の融合遺伝子がノックインされたマウスを解析し、Nanogの発現は桑実胚の中央部で始まり、内部細胞塊において最大となることを確認した。 2.Nanog遺伝子の調整領域の解明 レポーター遺伝子解析によりES細胞特異的発現に必要なエンハンサー配列を同定した。またエンハンサー活性にはOct4とSox2の2つの転写因子が重要であることを見いだした。 3.Nanogの標的遺伝子探索 未分化状態がSTAT3により維持されているES細胞と、Nanogにより維持されている細胞との間で、DNAマイクロアレー解析を行い、NanogとSTAT3の標的候補を多数同定した。 4.Nanogの複合体解析 アフィニティー精製によりNanog結合蛋白質の探索を試みているが、同定には至らなかった。
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