腎臓尿細管細胞に存在する一次繊毛は尿細管内部の尿の流れを効率的に感受し、その機械的刺激(水流刺激)に応じた一次繊毛からのカルシウムイオン流入が細胞内シグナル経路を駆動すると想定されている。Inv遺伝子は近年ヒトNephronophthisis (NPHP) type 2の原因遺伝子であることが判明した。inv蛋白質も一次繊毛に局在する。 本研究では、1)invマウスの尿細管細胞の水流に対する応答性に異常が存在するか否かを検討した。2)invマウスにC末端を欠如したトランスジーン(invΔ)を導入したinvΔマウスの嚢胞腎における遺伝子発現、細胞増殖、アポプトーシスに関して検討を加えた。 1.invマウスの尿細管細胞の水流に対する応答性 マウス腎臓尿細管細胞:正常マウスおよびinvマウスより尿細管を単離し、一晩培養後レクチンカラムにてそれぞれの尿細管細胞分画を回収した。水流負荷に対する繊毛の曲がり、および負荷中止時の繊毛の戻り、水流負荷によるカルシウム流入に関して検討したが、コントロールとinvマウスとの間に差を認めなかった。 2.嚢胞腎形成・進行で発現変化をする遺伝子の特徴 遺伝子の発現増加群は、コントロールでは発生・成長に伴い遺伝子発現が減少しているのに対して、嚢胞腎では減少の程度を少なく、見かけ上発現増加となっている群、コントロール群では発生・成長に伴う発現の変化は著しくないが、嚢胞腎では発現増加が見られる遺伝子群の2群に分類された。Apoptosisは3週令invΔマウスの腎臓において亢進が見られた。BrdUの取り込みは1週令・3週令で検討したところ、3週令invΔマウスの嚢胞腎において有意に取り込みが増強していた。 以上より、この結果は、Inv遺伝子は発生で減少すべき遺伝子の発現抑制、もしくは分化状態の維持に関与すると考えられた。
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