ゼブラフィッシュに関しては、神経発生期に少数の細胞で発現する転写因子に関して、その陽性細胞がどのような神経細胞へ分化していくかを調べた。今年度は特に、Chx10遺伝子について、詳しい解析を行った。その結果、Chx10陽性細胞はすべて同側下行性神経細胞であり、またグルタミン酸作動性の興奮性神経細胞であることを明らかにした。Chx10陽性細胞は、その活動パターンからおおまかに2種類に分けられ、逃避行動等の強い動きで発火するものと、通常の遊泳行動でフェージックに発火するものとが存在した。ついで、運動ニューロンとの2細胞同時記録を行い、どちらのタイプも運動ニューロンに直接シナプス結合していることを示した。すなわち、Chx10陽性細胞は、逃避行動、遊泳行動において、運動ニューロンの活動を制御する神経細胞であることが強く示唆された。 ホヤに関しては、神経に関する解析を進める前に、遊泳行動の基礎的理解を筋肉活動の観点から調べた。ホヤ幼生は遊泳運動中、画一的な筋収縮を繰り返すというより様々な強さの屈曲を連続させるという点と、神経入力に応じて筋肉の興奮度が変化する点に注目し、その筋肉のgradedな生理機能の主要な素因がnicotinic acetylcholine receptor (nAChR)分子の特性にあると考え、分子生物学的な解析を進めた。その結果、ホヤよりacetylcholine receptorをコードする遺伝子を複数種単離し、また、rapsyn遺伝子も単離し、それらが筋肉で発現することを示した。また、発現を制御する上流配列の解析も進め、Ci-Rapsyn遺伝子の上流配列1.4kb、Ci-nAChR-A1遺伝子の上流配列2.5kbに背側筋肉細胞における発現を十分に導けることが分かった。
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