本研究では、半導体から磁性金属に電子が流入する際の電気伝導率が、磁性金属のスピン依存状態密度に依存して変化すること(スピンフィルター効果)を利用して、半導体中に励起された伝導電子のスピンを検出することを目指している。具体的には、超高真空蒸着、リフトオフ法により作製した線幅0.7μmのFe(5nm)/A10x(1.5nm)/GaAs細線試料に対して、GaAsのバンドギャップと等しいエネルギーの円偏光を照射することでGaAs中にスピン偏極電子を励起し、そのスピン偏極電子がFe細線に流入する際の光電流の照射光円偏光度依存性を光弾性変調器を用いてロックイン計測した。円偏光度を変化させることにより励起電子のスピン偏極度を変化させることができるため、光電流の照射光円偏光度依存性はスピンフィルター効果と直接対応する。 測定に用いたFe細線の磁区構造を磁気力顕微鏡により観察し、残留磁化状態で細線の端を除いて単磁区構造が保持されていることが確認された。p型GaAs基板上に作成した試料に対して、A10x絶縁層に起因する電流-電圧曲線の明瞭な非線形性が観測され、良好なトンネル障壁が形成されていることが示唆された。この試料に対して円偏光度依存光電流を計測し、照射光エネルギーが1.42eVの時、円偏光度依存光電流のバイアス依存性においてバイアス電圧0.4V付近に明瞭なピーク構造が観測された。一方、照射光エネルギーを高エネルギー側にシフトすると、このピーク構造は消滅した。このことは、照射光のエネルギーがGaAsのバンドギャップと等しいときに大きなスピン偏極度を持つ電子が励起され、その結果、Fe細線に電子が流入する際にスピンフィルター効果によって円偏光度依存性が観測されたと解釈される。より明瞭な結果を得るために低温での計測を進めている。
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