研究概要 |
希薄磁性半導体の磁性については、実験的、理論的にある程度の理解が進んできたと言える。特に理論面からは、第一原理計算とスピン系のモンテカルロシミュレーションによって、磁気転移温度の定量的議論がモデルの範囲内で可能となったことによって、実験、理論双方の理解が深まったと言える。一方、輸送現象についてはまだ理論面からの研究が十分とは言えない段階である。昨年度より我々のグループでは輸送現象の第一原理にもとづく理解とスピントロニクスへの適用を目指した研究を進展させてきた。現在までに、久保・グリーンウッド公式に基づく、DC伝導、光学伝導、光吸収、XMCD等について、KKR-CPAのもとづく第一原理計算が可能となった。これらの手法を用いて、強磁性および反強磁性希薄磁性半導体の輸送現象の計算を行った。DC伝導に関してIII-V族、II-VI族化合物半導体をベースとし、磁性イオンMn、Crでドープした系に対して計算を行った。その結果、III-V族より、II-VI族の方が同じ不純物イオン濃度に対して伝導度は4〜8倍程度低いこと、一般的に不純物濃度の増加とともに電気伝導度は単調に増加し、不純物濃度1〜10%程度の領域で電気伝導はキャリア濃度に支配されていることが分かった。III-V族半導体をベースとする(Ga,Mn)Asについて、金属的伝導を示す領域での実験との定量的な一致は良い。また低濃度領域での伝導度の増加は急激である。一方、II-VI族をベースとした(Zn,Cr)SeについてはCr濃度が2%以下では伝導度は無く、2%以上で伝導度はほぼ直線的に増加する。III-V族ベースとII-VI族ベースでの不純物バンドの形成が定性的に異なっていることの反映であろう。光学伝導、X線吸収についても計算を行ったが、比較できる実験が十分ではない。特に、K吸収端X線磁気円二色性について多くの計算結果を得たが、微視的電子状態を反映しており実験との比較が期待される。
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