本研究は、周波数および実時間領域の分光学手法を用いて、強光子場による分子配列・変形の詳細を探ることを目的としている。本年度は、昨年度に開発したフェムト秒コヒーレント分光により分子の回転・振動運動の時間発展を追跡する計測システムについて、その性能評価を行った。one colorポンプ-プローブ計測において2つのパルス間の光位相をランダムに変調し、対応する蛍光信号の揺らぎを検出するCOIN法を適用することにより、以下に示すような様々な分子運動に関する量子波束運動の観測に成功した。第1に、ヨウ素分子のB-X遷移についてCOINスペクトルを測定し、結合伸縮振動に関する波束の回帰を明瞭に観測した。波束信号の減衰が回転温度によって大きく変化することを見出し、波束ダイナミックスを長時間追跡するためには、断熱冷却が不可欠であることを明らかにした。第2に、回転の効果のみを選択的に検出する目的でベンゼンのS_1-S_0遷移6_0^1バンドについてCOIN測定を行い、回転波束の初期減衰ばかりでなく波束の部分的な回復の観測にも成功した。スペクトルが回転温度に顕著に依存することを確認し、COIN法を利用すれば高い時間分解能で回転分布をモニターできることを明らかにした。第3に、オルトフルオロトルエンのS_1-S_0遷移オリジンバンドについて測定を行い、メチル基の内部回転に関する量子波束を観測した。COINスペクトルのフーリエ変換には、振電バンド間のビート成分がほぼ全て表れることを見出し、COIN法によってエネルギー準位構造を再構築できることが確認された。以上、強光子場中での分子運動を高い時間分解能で追跡する手法としてCOIN法が高いポテンシャルを有することを明らかにすることができた。
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