本課題では、強光子場中での気相溶媒和金属イオンクラスターの多価イオン化過程と金属イオンの酸化還元反応の機構解明と制御の可能性を検討するため、レーザー分光法と飛行時間質量分析器を用いた研究を進めている。今年度は以下の研究を行った。 1.Mg^+(NH_3)_nの二価イオンをTi-サファイアフェムト秒レーザーの基本波を用いて詳細に検討し、多価イオンの生成機構について検討した。またMg^+(NH_3)_4の励起状態の動的緩和過程および酸化還元反応の詳細な情報を得るために、Mg^+(NH_3)_4についてフェムト秒レーザーの基本波(800nm)を用いたポンプ-プローブ実験を行った。時間変化より励起状態の寿命は800fsと得られた。この結果は、溶媒和に伴って励起状態が非常に大きく安定化され、基底状態への無輻射過程の速度が非常に速くなっていることを示している。他方、蒸発生成物であるMg^+(NH_3)_3イオンの検出により、Mg^+(NH_3)_4の励起後の吸収回復に相当する信号変化を初めて観測し、時定数を決定した(1.2ps)。この時定数は基底状態への内部転換と(3+1)構造から(4+0)構造への異性化過程に帰属した。現在、これらの溶媒和ダイナミックスを直接実時間で観測するために、赤外レーザーを用いたポンプ-プローブ実験の準備を進めている。 2.Mg(H_2O)_n、Ca(H_2O)_nの幾何構造と電子構造 上記の研究をより興味深い水の系に拡張するために、Mg(H_2O)_n、Ca(H_2O)_nの電子状態の研究を行った。ここではレーザー蒸発で生成したこれらのクラスターについて、光イオン化過程を検討した。この結果、アルカリ金属原子の系と同様に、8個以上の水分子の配位によりイオン化ポテンシャルは3.1eVに収束することが実験的に明らかになり、金属原子のクラスター内での自発的イオン化を示唆する新しい結果が得られた。
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