III-V化合物ナノ粒子を電子励起すると、III族とV族元素への相分離やアモルファス化等の構造相転移が起こることを明らかにしてきた。本年度は、GaSbナノ粒子をとりあげ、電顕内その場観察法によってこうした相転移過程と励起電子線のエネルギーの影響を調べ、以下の知見を得た。 粒径10-20nmのナノ粒子においては、エネルギー75keV、423Kでの電子励起によって閃亜鉛鉱構造をもつ化合物ナノ粒子がSbをコアにGaをシェルとした二層構造をもつナノ粒子に相分離するとがこれまでの研究から明らかにされている。このような相分離のプロセスにおいては、電子励起による異種原子間結合の不安定化によってまず化学的不規則化が起こる。化学的規則度の著しい低下による同種原子のクラスタリングから、固体Gaの表面エネルギー(360mJm^<-2>)が固体Sbのそれ(370mJm^<-2>)よりも若干小さいことによる効果が重畳してGa原子が粒子表面近傍へ拡散して組成変動が誘起される。ナノ粒子においてはバルクに比べて化合物の固溶限が拡大し、Ga濃度が増加したGaSbシェルとSb濃度が増加したGaSbコアにおける化合物の化学量論組成からのずれが一定の範囲までは化合物の構造を保つが、それを越えると閃亜鉛鉱構造そのものの不安定化が起こる。その結果、二層構造をもつナノ粒子への相分離が進行すると考えられる。 一方、励起電子エネルギーを200keVまで高くして励起断面積を75keV励起の約26%まで小さくすると、長距離の原子拡散が可能な423Kにおいても固体内電子励起による異種原子間結合の不安定化に起因した局所的な原子変位の凍結であるアモルファス化が誘起されるにとどまる。この事実は、こうした電子励起による長距離の原子移動が励起効率に依存する協力現象であることを示唆しており、75keV電子励起において電子線強度の低下にともないこうした現象が抑制される結果とも矛盾しない。
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