研究概要 |
我々はすでに、五員環の炭素上に不斉置換基(メンチル基)を有するホスフォールとしては最初の例となる化合物を合成し、報告している。第二世代の不斉ホスフォールとして、2,5-位にビナフチル基を有するホスフォールを合成した。得られた不斉ホスフォールをホスファメタロセンへと変換すべく、金属リチウム、ナトリウム-ナフタレンなどとの反応を試みたが、対応するホスフォリドは得られなかった。ホスフォールのホスフォリドへの変換は次のような2段階のステップを経る。まず、ホスフォールへの-電子移動によりアニオン・ラジカル種が発生し、次にP-R結合の切断によりホスフォリドが生じる。 2,5-位にビナフチル基を有するホスフォールおいては、最初に生じるアニオン・ラジカル種がビナフチル基で安定化されているため、P-Ph結合の切断が進行せずホスフォリドが生じないと考えられる。そこで部分的に水素化されたビナフチル基を有する類似のホスフォールを合成したところ、期待された通り、ナトリウム-ナフタレン処理によりホスフォリル・アニオンが生じ、そこから種々のホスファメタロセンが得られた。 ここで得られたホスファメタロセンを、共役エンインのパラジウム触媒不斉ヒドロシリル化反応へと応用した。この反応では、ヒドロシランがエンインへ1,4-付加することにより軸不斉アレンが生じる。Cp基を持つホスファフェロセンに比べて、Cp*基を有するホスファフェロセンを用いると、収率・エナンチオ選択性ともに大幅に改善され、0℃での反応により、最高92%eeの軸不斉アレンが得られる。類似の構造を持つホスファルテノセンを用いると、収率・選択性、共に低下する。なお、不斉置換基として(-)-menthyl基を有し、類似の骨格を持つ不斉ホスファフェロセンをこの反応に用いると、アレンの生成は認められずに複雑な混合物しか得られない。
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