研究概要 |
我々はすでに、最初のジホスファルテノセン類の合成について報告している。ホスファフェロセン類は通常のフェロセン類と同様に芳香族性を示し、Friedel-Craftsアシル化などの求電子置換反応を受ける。今回我々は、ある種のホスファルテノセン類がアセチル求電子剤との反応において他のメタロセン類とは全く異なる反応性を示すことを見い出した。2,2',5,5'-位にシクロヘキシル基を有するジホスファルテノセンに塩化アルミニウム存在下で塩化アセチルを作用させると、塩化アセチルからの脱塩化水素、およびカルボニル部位の炭素-酸素二重結合の開裂を伴い、ビニリデン基がホスフォリド基のリン原子とルテニウム中心とを架橋した錯体が生じる。この時、カルボニル基由来の酸素原子はビニルデンと架橋したリン原子と新たな結合を生じた。この錯体は水、および空気に対して安定であり、シリカゲル・カラムにより精製できた。 この反応は、ホスフォリド-ルテニウム錯体に特有の反応であり、同様のビニリデン錯体はペンタメチルシクロペンタジェニル基を有するモノホスファルテノセンからも生じる。一方、類似の構造を有するジホスファフェロセンからは、架橋ビニリデン錯体の生成は全く観測されず、通常の求電子置換反応が進行し、ジシクロヘキシルホスフォリド配位子のβ位がアセチル化された生成物を生じた。 このアセチル基の炭素-酸素二重結合活性化を伴った新規反応の反応機構は、ルテニウム上への求電子攻撃、および分子内Arbusov反応によるものと考えられる。
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