研究概要 |
加水分解や加アルコール分解反応を人工触媒で行い、選択性を発言させようという方針で研究を行っている。本研究では、生体触媒による加水分解反応や、従来の人工酵素による反応を実用性で上回る新手法を開発することを目標に金属錯体触媒の開発を進めた。具体的には、従来からよく用いられているニトロフェノール類のエステルは使わず、さらにpH調整用緩衝液を用いないことを前提にした。これまでにビニルエステルおよびビニルエーテル類が各種の金属錯体により速やかに加水分解されることを既に見出しており、この知見を基に不斉反応化に取り組んだ。 コバルトサレン触媒がビニルエーテル類の不斉加水分解反応において、比較的高い選択性を示すことがわかった。これまで最高で、k_<rel>=10.0が観測され、62%convnで90%eeの未反応原料が得られている。さらに、パラジウムジアミン錯体により不斉加アルコール分解反応が高い選択性で行えることがわかってきた。不斉反応の基質としては2,2'-ジヒドロキシ-1,1'-ビアリール類のモノアシルモノビニル体を用いた。その結果、アシル基としてピバロイル基を用いた場合、ビナフトール類でk_<rel>=12-21、ビフェノール類でk_<rel>=12-35の選択性が出せることがわかってきた。例えば、6,6'-ジメキシ-2,2'-ジヒドロキシ-1,1'-ビフェノールのモノピバロイル、モノビニル体のメタノール分解において、パラジウムジアミン錯体を用いたとき、55%convnで95%eeの未反応原料を回収することができる。触媒量を5mol%から1mol%に下げても選択性は維持される。なお、このとき、不斉ジアミン配位子としてはテトラフェニルフェニル基を有するものを用いた。本反応の一般性は高く、これまで不斉合成が困難だった2,2'-ジヒドロキシ-1,1'-ビフェノール類の不斉合成に広く適用できることがわかった。さらに、アルコールとして2-クロロエタノールを用いた場合にはk_<rel>=40まで向上した。今後さらに合成的な応用や機構研究を行う。
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