本研究は、結晶性の良いペプチドを用いて金属酵素活性中心を化学合成することを目的としている。科研費交付期間内の目標は、ペプチド配位子と錯体の合成、結晶化、構造解析の3点について手法を確立することである。我々は小分子モデルで得られた合成的手法を用いて、アミノ酸に由来する配位環境まで含めた活性中心へ発展させ、より複雑で大きな活性中心の構築を目指している。 (1)カルボン酸配位子を持つペプチド これまでに我々は金属酵素活性中心の化学合成を目的として、ヘリックスペプチドを配位子とするペプチド錯体の合成を行ってきた。その結果、b-(3-pyridyl)-L-alanine(Pal)残基を含んだ配列が結晶性と溶解性に優れていることを明らかにしてきた。今回新たに、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、ヒスチジン(His)残基を配位子として持つヘリックスペプチドについて、その合成方法、錯形成挙動、結晶構造を検討した。 ペプチド合成はフラグメント縮合による液相法で行った。合成中、AspとGlu側鎖の保護にはベンジル(-OBzl)基を用いた。His側鎖の保護にはベンジルオキシメチル(-Bom)基を用いた。 (2)システイン残基を持つペプチド 本重点研究を通して、酸素原子(カルボン酸)や窒素原子(ピリジン環、イミダゾール環)を配位子とするペプチド化合物については、合成方法が確立され始めてきた。しかし活性中心に良く見られる硫黄配位子については、同様な方法では合成することができない。例えばシステイン(Cys)やメチオニン(Met)残基は、保護基の最終脱保護反応の際に接触還元法(Pd-C/H2)を使うことができない。そこで今年度より、Cys残基を配位子として持つ結晶性ペプチドについて研究を開始した。現在ジスルフィド結合を保護基として用いる研究が進展している。
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