研究概要 |
本研究は、アルケニルトリクロロアセテートを基質とするアルドール反応において、反応後、系中に添加したメタノールにより再生するキラル金属アルコキシド触媒及びその等価体の開発を目指している。本年度はまず、ビナフチル骨格をもつキラルスズオキシドの合成を行った。このキラルスズ化合物を触媒量用いて、メタノールの存在下、アルケニルトリクロロアセテートとアルデヒドとのアルドール反応を試みたところ、目的とする付加体がシン選択的に得られた。主生成物であるシン体のエナンチオ選択性は低かったものの、アンチ体の方は81%eeを示した。さらに、目的とするキラルスズジメトキシド触媒を反応系中で発生させ、そのまま本アルドール反応に適用してみたところ、同様にキラル触媒として機能することが見出された。また、ジブチルスズジメトキシドが触媒するイミン類とアルケニルトリクロロアセテートとのマンニッヒ型反応について検討した結果、様々なアルジミンが反応し、目的とするβ-アミノケトンをシン選択的に与えることがわかった。さらにアルケニルトリクロロアセテートの基質一般性の検討を行ったところ、環状ケトンのみならず鎖状ケトン誘導体も良好な収率で生成物を与えることがわかった。一方、既に発表したジブチルスズジメトキシド触媒によるアルケニルトリクロロアセテートのアルドール反応において、反応時間を十分に長くとると、連続して脱離反応が進行し、α,β-不飽和ケトンが得られることも見出した。このアルドール/脱水連続反応においても様々なアルケニルトリクロロアセテートとアルデヒドを用いることができるが、その生成物はいずれもE配置を示す。本反応は古典的なα,β-不飽和ケトン合成法として知られるClaisen-Schmidt反応と比べて、より温和で殆ど中性の反応条件で行える点で、極性官能基を含む複雑な基質にも適用できることが期待される。
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