ディスク状多座配位子から作られる金属錯体型簿分子ボールベアリングの自由回転を証明するために、対称性の低いディスク状3座配位子をデザイン、合成を行なった。今回デザインを行なった金属錯体が自由に回転できる場合、その回転運動がNMRのタイムスケールに比べ速い時、六座配位子の対称性はより対称性の低い三座配位子の対称性の影響を受けることなく、単一のシグナルを与えることが期待される。実際、ディスク状三座配位子と6つのチアゾリル基を有するディスク状六座配位子と銀イオンからサンドイッチ型錯体を調整し、NMR測定を行なった結果、193Kにおいて六座配位子のシグナルの分裂は観測されず、この錯体が293KにおいてNMRのタイムスケールに比べ十分速い速度で回転していることが明確に示された。また、温度を低下させてNMR測定を行なうと、回転速度の低下に伴って、六座配位子のシグナルの分裂が観測され、203Kにおいて1:2:3に分裂し、三座配位子の対称性から予想されるものと一致した。 さらに、回転運動に含まれる金属配位子交換およびフリップ運動の相対的なエネルギー差を見積もるために、不斉を有する三座配位子としてオキサゾリン環を導入したディスク状三座配位子から作られる分子ボールベアリングについて温度可変NMR測定を行なった。その結果、温度低下に伴って、六座配位子のシグナルのみが分裂し、このことは金属配位子交換がNMRのタイムスケールに比べ遅くなったことを示しており、不斉の導入に由来する金属錯体のジアステレオマーは観測されなかった。従って、配位子交換が十分遅い状態においてもらせん性の変換、すなわちフリップ運動が引き続き行なわれていることを示す結果となり、フリップ運動に比べ金属配位子交換のエネルギー障壁が十分高く、配位子交換が回転運動の律速段階であることが明らかとなった。
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