研究概要 |
本研究は、最近私達が見いだした結晶相反応-[(Cp^*Rh)_2(μ-CH_2)_2(μ-O_2SSO_2)](1a, Cp^*(η^5-C_5Me_5))と[(Cp^*Rh)_2(μ-CH_2)_2(μ-OSOSO_2)](2a)との間の異性化(正反応が光反応、逆反応が暗反応で進行)-を基礎にして、結晶状態で光応答機能を持つ金属硫黄錯体の探索とその機能解明を主たる目的とした。 本年度は,結晶相光反応における速度および選択的酸素移動と光官能基であるμ-O_2SSO_2周りの空間の形状・大きさあるいはCp^*配位子のダイナミックスとの関連性を調べた。 結晶相反応の起る反応空間をより広げる配位子としてCp^*(η^5-C_5Me_5)の変わりにCp'(η^5-C_5EtMe_4)を用いて、対応する[(Cp'Rh)_2(μ-CH_2)_2(μ-O_2SSO_2)](1b)の結晶を作成した。この結晶は,空間群(P21/n)およびユニットセル中の分子の数は,1aの結晶と同じで,分子の配列もほぼ同じと見なして良い。1aと1bの結晶混合試料による光反応の相対的な速さを測定した結果,μ-O_2SSO_2周りの空間の体積の小さい1a(6.510Å^3)の方が大きな1b(9.462Å^3)より速いことが分かった。このことより,これら2つの結晶の反応の速さには空間の体積は,影響していないことが判明した。 1aの固体CP/MAS ^<13>C NMRスペクトルでは,2種類のCp^*配位子に基づくシグナルが観測された。一つのCp^*配位子はNMR測定のタイムスケールの速度で回転しているのに対し,他方のCp^*配位子は-120℃においても高速で回転していることがわかった。このように,2種類のCp^*配位子の回転障壁は大きく異なり,分子中のCp^*配位子のダイナミックスに非等価性が確認された。1aの酸素選択的移動とこのCp^*の回転運動との関連をみると,回転速度の遅いCp^*側の特定の1つの酸素が移動して,ほぼ等価なCp^*の回転運動する2aに異性化するということが分かった。なお特定の1つの酸素は,6つのCp^*配位子で構成される空間で,最も混み合った位置にある酸素である。このように選択的酸素移動反応は,結晶空間の動的要因と静的要因とが同時に絡んで進行していると考えられる。なお回転速度の遅いCp^*のリング炭素の固体スペクトルの波形解析により,その運動の活性化エネルギーは,30kJmol^<-1>であると見積もった。
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