本研究では、蛋白質内部空間を錯体合成・反応のための特異な反応場と位置づけ、全く新規な金属錯体の合成法確立と反応への応用を目指すとともに、蛋白質空間内に取り込んだ金属錯体を用いて、外部シグナルによる内部空間自体の可逆的な制御とシグナル変換を目的としている。本年度は、鉄貯蔵蛋白質、フェリチン内部空間でのパラジウムナノ粒子の合成と合成したナノ粒子を用いた構造選択的水素化反応(研究1)、ならびに活性酸素のセンサーとして機能するシグナル伝達タンパク質のセンサー構造とセンシング機構(研究2)について研究を行なった。 研究1では、8nmの中空構造を有する鉄イオン貯蔵タンパク質フェリチンの内部空間を利用してほぼ単分散(直径=2.0nm)といえるパラジウムナノ粒子の合成に成功した。通常このサイズの粒子は、溶液中で容易に凝集し、粒子形状の不揃いな多分散を生じやすいが、本法ではフェリチンタンパク質に包み込むことによって、溶液中で極めて安定に存在するパラジウムナノ粒子を調製することが可能となった。合成したフェリチン包含パラジウムナノ粒子を用いて、アクリルアミド誘導体の水素化反応を試みたところ、既存の方法で調製されたパラジウムナノ粒子を上回る触媒活性と基質選択性がみられ、本法によって得られるパラジウムナノ粒子が触媒として有用であることが分かった。 研究2では、活性酸素を感知する転写調節因子VnfAが3鉄-4イオウ型の鉄イオウクラスタ([3Fe-4S])を有することを明らかにした。[3Fe-4S]のような不完全キュバン型クラスタが、センサーとして機能するタンパク質はこれが最初の例である。このクラスタによる活性酸素の検知はクラスタ構造の喪失によるものであることがin vivoでの実験より示唆され、クラスタ構造の有無によってVnfAタンパク質の構造変化が誘起されるものと考えられる。
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