研究概要 |
アリールビス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン類はそのアリール基の化学修飾が比較的容易なためスーパー酸触媒を精密設計する上で魅力的である。我々の研究室では濃硫酸よりも強い超強酸性を示すペンタフルオロフェニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンの簡便な合成方法を確立し、幾つかのスーパー酸触媒の設計に応用している。今回、アリールビス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンの一般的な合成方法として利用可能であることを明らかにし、キラルブレンステッド酸触媒の設計を行ったので報告する。ペンタフルオロフェニルビス(トロフルオロメタンスルホニル)メタンの合成方法に倣い、アリールメチルハライドとトリフルオロメタンスルフィン酸ナトリウムの置換反応によりアリールメチルトリフルオロメチルスルホンを高収率で合成した。次に、tert-ブチルリチウムでベンジル位を脱プロトン化し、トリフルオロメタンスルホン酸無水物で処理することによりアリールビス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンを合成することができた。また、2段階目の反応をワンポットで繰り返し処理することにより、より高収率で目的とする化合物を合成することができた。アリール基としてはフェニル基やナフチル基はもちろん、嵩高いメシチル基や電子求引性置換基を有するものまで幅広く適用可能であることがわかった。入手容易な光学活性ビナフトールの片方の水酸基をビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル基に変換することにより、2-ヒドロキシ-2'-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル-1,1'-ビナフチル(1)を合成した。具体的には、まず光学活性ビナフトールの片方の水酸基をトリフラートに変換し、もう片方の水酸基をMOM基で保護した。続いて、ニッケル(II)触媒存在下、メチルマグネシウムブロミドでトリフラート部位をメチル基に変換し、さらにAIBN存在下、NBSでメチル基をブロモメチル基に変換した。その後は、先の方法でビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル基に変換した。そして、最後にMOM基を酸性条件下、加水分解することによって1に変換した。キラルブレンステッド酸1のX線結晶構造回折によって、その分子構造及びコンフォーメーションの安定性について確認した。興味深いことに、水酸基のプロトン及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)メチル基の活性プロトンはそれぞれ向かいのナフチル環上に位置しており、プロトン-π相互作用が確認された。活性プロトンと水酸基の酸素原子間に分子内水素結合を期待していたが、結晶構造においては確認されなかった。現在、この1をキラルブレンステッド酸触媒として用いたエナンチオ選択的反応の検討を行っている。アルジミンとケテンシリルアセタールとのマンニッヒ反応において最高60%eeを達成している。
|