研究概要 |
生体内に存在する遷移金属含有酵素・タンパク質の一つであるhemerythrin(Hr)は、海洋無脊椎動物中に存在する酸素運搬タンパク質で、その活性中心には二つの鉄が存在し、一方は六配位飽和であるのに対し、他方は五配位で一つの空配位座を有している。酸素分子はこの空配位座に配位すると同時に二つの鉄によって二電子還元され、パーオキソを形成し、次いで架橋ヒドロキソからプロトンを受けることでハイドロパーオキソを生成する。そしてこのハイドロパーオキソと架橋オキソ間に水素結合を形成することで、単核鉄にハイドロパーオキソ種をend-on配位で安定に捕捉している。本研究では、このHrの活性中心と同様な、二つの鉄が異なった配位環境を有する二核鉄錯体を合成することを目的とした配位子として、二核構造を強制し、かつ非対称な場を形成し得るN, N-bis-(6-pivalamido-2-pyridylmethyl)-N'-(2-hydroxyethyl)-N'-(2-pyridylmethyl)-1,3-diaminopropan-2-ol (HBPHDO)を設計した。そしてこの配位子を用いて合成した二核鉄錯体と、過酸化水素および酸素との反応により生成する活性酸素種について、各種分光学的測定により検討した。その結果、Hrのoxy体同様に水素結合によって安定化された単座end-on型のハイドロパーオキソ鉄錯体の生成に成功した。また、二核鉄(II)錯体と酸素との反応についても検討し、空配位座に配位したパーオキソが他方の鉄を攻撃することでcis-μ-1,2型のパーオキソ錯体の合成に成功した。
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