研究概要 |
フラーレン部分構造に代表されるボウル型共役化合物は、その基本的物性のみならず、ボウル構造の反転現象などの独特な動的挙動にも興味が持たれる。特に、炭素骨格の一部をヘテロ原子で置換したヘテロバッキーボウル誘導体は、遷移金属に対する動的配位子として注目されているが、現在までこれらを配位子とする金属錯体はもとより、配位子自身の合成法についても確立していない。そこで、本年度の研究においては、合成経路の確立に関する研究を開始すると同時に、計算化学による基本的物性の理論的研究についても検討を行った。 既に合成法について報告しているC3対称基本骨格構造を有する「スマネン」と同様の骨格を有し、これらの5員環、6員環部分にそれぞれ窒素原子を置換した一連の誘導体について、密度汎関数法による非経験的分子軌道計算を行った。その結果、安定構造におけるボウルの深さは、導入する窒素原子数に応じて大きくなることがわかった。ただし、分子の対称性に応じてボウルの形状にゆがみが生じるので、若干の深さの逆転も見られる。一方、ボウル反転障壁に関しては、ボウルの深さに依存せず窒素の導入数に応じて大きくなることがわかる。特に注目すべきは、窒素の導入位置によって値が大きく異なることで、例えば窒素数3の異性体の場合、ボウルの深さはほぼ同程度であるのに対し、活性化エネルギーは6員環N誘導体の方が6員環N誘導体に比べて4kcal/mol以上大きいことが明らかとなった。また、フロンティア軌道に関しては、5員環N誘導体はスマネンに比べHOMOが高くなっており、また電子受容性が期待される6員環N誘導体は、HOMO,LUMOともに大きく低下している。スマネンが未ドープ状態においても導電性を示すことから、これらのバッキーボウル分子は新規な有機伝導体骨格として期待されているが、ヘテロ原子の導入は直接物性に影響を与えるものと示唆される。
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