研究概要 |
本研究は,金属多核骨格を有するナノクラスター分子の合成を基盤として,それらの動的挙動に基づく新規機能及び反応性の開発を目的とする。昨年度の研究課題(15036246)に引き続き以下の項目について研究を展開した。 (1)直鎖状六核クラスターの酸化還元に伴う動的骨格変化の解明 直鎖状金属六核クラスター[Pt_4M_2(μ-dpmp)_4(XylNC)_2]^<3+>(M=Pt,Pd)を合成し,さらに,それらが1電子の酸化及び還元を受け,[Pt_4M_2(μ-dpmp)_4(XylNC)_2]^<4+>及び[Pt_4M_2(μ-dpmp)_4(XylNC)_2]^<2+>に変換されることを明らかにした。この過程で起こる,金属結合距離のダイナミックな伸縮についてX線結晶構造解析及び種々の分光分析によりその詳細を解明した結果,酸化に伴いクラスター骨格は保持されているが,金属六核鎖の末端部から中央部への金属結合電子の流入が生じ,金属-金属結合距離のダイナミックな変化が起こることが明らかとなった。この際生じるクラスター骨格内での電子の流動について,DFT法を用いた分子軌道計算によりその要因を解明を行った。結果の一部はAngew.Chem.Int.Ed.に発表した。 (2)PNNP多座配位子を用いた三核錯体の開発 PNNP型配位子dpnapyを用いることにより,電子豊富なPt(0)中心を2個有する錯体[Pt_2Na(dpnapy)_3(XylNC)_2]^+を合成した。この錯体は段階的にヒドリドを取り込み,[Pt_2Na(H)(dpnapy)_3(XylNC)_2]^<2+>及び[Pt_2Na(H)_2(dpnapy)_3(XylNC)_2]^<3+>へと変換される。これらの錯体について詳細な構造決定を行うと同時に,種々の分光分析及び電気化学特性について検討を行った結果,特に,約8Å離れた2個のPt中心間に存在する非常に微細な構造変化による長距離情報伝達が明らかとなり,(0,1,2)型分子メモリーとしての可能性が示唆しされた。結果の一部はOrganometallicsに発表した。 (3)水銀原子を取り込んだかご形白金六核クラスター 水銀原子を2個取り込んだ白金六核クラスター[Hg_2Pt_6(diphos)_3(RNC)_6]の合成法を確立し,その構造の詳細を明らかにすると同時に,電子状態についてもDFT法分子軌道計算により検討を行い,水銀原子の取り込みに関する要因を明らかにした。
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