研究概要 |
本研究では、シス型反応場を構築する新しい不斉配位子とその金属錯体を触媒とする不斉合成反応の開発を目指した。所期の目的は達成されていないが、以下に示す興味ある知見を見出すことができた。 ビナフトールユニットをC2位で直結させた軸性キラル化合物クアテルナフチルジオール(QNOL)は、そのC3(3''')位に様々な官能基を導入することにより、各種遷移金属イオンに配位してシス型反応場を形成するものと期待された。収率に尚改善の余地が残されているものの、2,2'-ビナフトール(BINOL)から4行程で光学活性なQNOLを不斉合成するルートを確立することができた。 一方、光学活性なQNOLの構造について興味ある知見を得ることができた。(S,S)-QNOLのX線単結晶構造解析を行ったところ、C2およびC2'''位水酸基の間に分子内水素結合が作用し、2',2''-ビナフチルユニット間に軸不斉(R)が誘起されることが分かった。これは、分子間で水素結合ネットワークを形成するBINOLとは大きく異なる点である。また、再結晶溶媒として用いたジエチルエーテルがC2位水酸基との水素結合およびナフチル基とのCH-π相互作用を介して結晶格子中に補足されることを見出した。これとは対照的に、C2およびC2'''位水酸基をメチルエーテルで保護したQNOL類縁体は、メトキシ基どうしの反発を避けるためにC2'-C2''軸におけるキラリティーのセンスが逆転した。これらX線構造解析の結果より、QNOLはBINOLでは実現できない特異な不斉反応場を提供するものと期待された。そこで、QNOL骨格を基盤とするシス型不斉反応場の構築と並行して、キラルブレンステッド酸、不斉プロトン化剤、各種金属QNOL錯体触媒などの開発に向けて検討を行った。これまでに予備実験を行い、最高40% eeの不斉収率が得られている。
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