研究概要 |
シクロペンテニルヨードニウムテトラフルオロボラート(1)を合成し、クロロホルム溶液中、60℃で種々の求核剤/塩基との反応を調べた。臭化物はビニル置換生成物を主として生成したのに対して、シアン化物はアリル型置換生成物を与えた。一方,酢酸イオンは両者の置換生成物を与えた。臭化物の反応は,類似のヨードニウム塩の場合と同じように超原子価中間体を経てリガンドカップリングによって進んでいると考えられた。酢酸イオンの反応はシクロヘキセニル誘導体の場合と同じように,脱離-付加機構によって進行している可能性があるため,重水素化基質を合成し、生成物の重水素分布を調べた。その結果,重水素は反応中全く失われていないことから、脱離中間体を経ていないことがわかった。また、非常に効率のよい捕捉剤であるテトラフェニルシクロペンタジエノンを用いてもシクロペンチンは捕捉されなかった。ビニル置換体は主としてリガンドカップリングで生成しているものの、部分的に重水素の移動が起こっており、付加-脱離によるカルベン中間体からの転位でも生じているものと結論された。アリル型生成物は、マイケル付加によって生成したヨードニウムイリドからヨードニオ基の脱離でカルベンを生じ、1,2(重)水素移動で生成したものと結論された。また反応速度は、求核剤濃度にほとんど依存せず,超原子価中間体(ヨーダン)を生成する前段平衡を経て反応が進んでいるものとして説明された。
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