ビス(トリフェニルゲルミル)(第3級ホスフィン)白金錯体の動的挙動研究の結果を踏まえて、ビス(トリトリルゲルミル)(第3級ホスフィン)白金錯体の合成、構造、および反応について研究した。 ビス(トリトリルゲルミル)白金錯体の合成は、シス-白金ジクロロ錯体に対応するトリトリルゲルミルリチウムを作用させることにより行った。合成したビス(トリ(m-トリル)ゲルミル)白金錯体はトランス体が安定であり、その構造をX-線結晶構造解析装置で決定した。安定なトランス体を光照射すると、対応するシス体を得ることができた。シス体およびトランス体の間で熱、光異性化反応をいろいろな条件で行い、この異性化の機構を活性化パラメーター、配位子添加効果、および計算化学により議論した。熱異性化はゲルミル白金錯体の構造のねじれによる起きるという従来にない全く新しい機構を提出した。また光異性化においても錯体の励起状態のねじれ構造が重要であることを明らかにした。 さらに、合成したビス(トリ(o-トリル)ゲルミル)白金錯体はトランス体が安定であり、その構造をX-線結晶構造解析装置で決定した。この錯体ではトランス体およびシス体の問での熱・光異性化は観測されず、トランス体からのオルトメタル化のみが生じた。同時に水素化ゲルマンも生じた。オルトメタル化の機購についても計算機化学を併用して議論した。 最後に白金ジクロロ錯体にトリ(p-トリルゲルミル)リチウム作用させ、常法にしたがい処理するとジゲルマンが定量的に生じた。この反応を-40℃で行うと、シス体:トランス体が3:7の比で生じた。この錯体を室温に戻すとジゲルマンが生じる。配位子の添加効果により還元的脱離の機構を検討した。十分な実験の必要があるが、還元的脱離はシス体よりトランス体が優先するという驚くべき結果が得られた。
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