研究概要 |
(1)脚の長さの異なる3種類の三脚型チオエーテルオリゴマーを保護分子として用い、金ナノ粒子の調製を行った。得られたナノ粒子はTEM,SAXSの解析から粒径1.5nm前後と見積もられ、脚の長さに対する強い依存性は見られなかった。これらのナノ粒子のクロロホルム溶液に1-ドデカンチオールを加えると、チオール保護ナノ粒子と遊離のチオエーテルオリゴマーの生成が確認された。チオエーテルはチオールにくらべて金表面への結合が弱いが、この系では分子内の多点相互作用によってナノ粒子が安定化されていることを示唆している。 ナノ粒子1つあたりの金原子数をTEMで得られた粒径から推測し、またAu:Sの原子数をICP発光分析で調べることにより、ナノ粒子1つあたりのチオエーテルオリゴマー分子の結合数を見積もったところ、10〜25という値が得られ、1つのナノ粒子に対して多数の保護分子が結合していることがわかった。1:1の結合比を実現するためには、より精密な分子設計が必要となる。 (2)(1)で述べた分子は柔軟で自由度の高い構造を持っており、溶液中での動的構造を直観的に予測することは困難である。そこで、分子設計の補助手段として分子動力学計算の活用を検討した。金とチオエーテルの相互作用は、金を含む原子対に対して6-12型のvan der Waalsポテンシャルと仮定し、そのパラメータは金(111)表面に対するチオール・チオエーテルの物理吸着エネルギーを再現するように最適化した。このポテンシャルと、AMBER99に基づく分子力場を用い、クロロホルム溶媒中での全原子分子動力学計算を行った。Au_<147>が1.6mM,チオエーテルオリゴマー分子が27mMの初期濃度で、300K,6nsのシミュレーションを行うと、金粒子に3〜5個チオエーテルオリゴマーが結合した複合体が観測された。実験で得られた「1粒子あたり保護分子が10〜25個」という値はこれよりはるかに大きいため、これらの分子の一部は金粒子に直接結合せず、精製段階で共沈を起こしている可能性を示唆している。
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