研究概要 |
電子相関の強さとバンド幅の比という観点から有機超伝導体の電子状態を明らかにすることを目的に、反強磁性絶縁相との境界に近い超伝導相に位置するκ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]BrにおいてSTM分光測定を行った。 この物質においては、部分重水素置換により電子相関の強さを細かく制御できることが知られているが、水素体κ-(BEDT-TTF-d[0,0])_2Cu[N(CN)_2]Brおよび部分重水素化したκ-(BEDT-TTF-d[2,2])_2Cu[N(CN)_2]Brに加え、さらに電子相関が強く反強磁性絶縁相との境界に近いκ-(BEDT-TTF-d[3,3])_2Cu[N(CN)_2]Brについて調べた。d[3,3]塩においても超伝導転移温度以下では明確な超伝導ギャップが観測され、トンネルスペクトルの形状からd[0,0]塩やd[2,2]塩と同様に超伝導ペアの対称性はd-波であることが明らかになった。得られたギャップパラメターと転移温度の比はd[0,0]塩、d[2,2]塩において得られたものよりも小さく、Mott転移境界近傍では電子相関の増加とともに必ずしも単調に増加するものではないことが示唆された。さらに、ゼロバイアスにおいてトンネルコンダクタンスが発散的に増加するゼロバイアス異常が観測された。この現象が2次元有機超伝導体において見出されたのは今回が初めてであるが、様々な実験からd-波ペアが示されてきたκ-(BEDT-TTF)_2Xにおいて超伝導ギャップにノードがあることのより直接的な証拠を与えるものである。電子相関及び2量体化の強さとギャップのノード方向との関係を明らかにすることが今後の課題である。
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