研究概要 |
窒素が持つ特異性を伝導性に導入するため、窒素ソースとしてピラジン環を導入したTTF系ドナー分子CnDTP-TTF、CnDTP-STF(n=5,6)の合成と電荷移動錯体の作成を行なった。C5DTP-TTFはcH...N相互作用を有するκ型のMott絶縁体を多く与えた。一方C6DTP-TTF塩はβ"構造を有し、C5DTP-TTF系で見られたようなCH...N相互作用は存在しなかった。この両者の差は五員環と六員環の平面性によって生ずると考えられる。すなわち、五員環はドナー平面に沿うような形をとるため塩は二量体化し易く、その結果C5DTP-TTFはCH...N相互作用を介したκ型塩を多く与える。六員環はドナー平面に対して垂直に立ち、二量化しにくい。そのためβ"型塩を与えたと思われる。 このような窒素が与える特異性に高い伝導性を付与させる目的で、TTP骨格を有する含窒素有機伝導体の設計を行なった。TTP骨格を導入した場合、溶解性が大幅に低下したため、エチルチオ基を有する含窒素TTP系ドナーC2TP-TTP、C2TP-TS-TTPの合成を行なった。電荷移動錯体のうちβ-(C2TP-TS-TTP)_2PF_6は室温伝導率が1000S cm^<-1>と非常に高く、10K付近まで金属的挙動を示した。拡張ヒュッケル法を用いた計算ではHOMO軌道の位相がTTP骨格上で反転し、現実に沿わない結果であることが判明した。AM1法を用いた場合HOMO軌道の形は合理的であり、この結果を用いてバンド計算を行なったところ、バンド幅の大きさはβ"-(C2TET-TTP)_2ClO_4とほぼ同程度であると判明した。β"-(C2TET-TTP)_2ClO_4は低温まで金属的挙動を示し、拡張ヒュッケル法ではバンド幅が約1.2eVであることが報告されており、窒素原子がπ系と共役する場合でも十分なバンド幅を確保できることが分かった。
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