本研究は、50μg-1mg程度の分子性導体単結晶試料や粉末試料を対象にした絶対値測定が可能なカロリーメーター(比熱計)を^3Heまでの極低温領域、最大15Tでの定常磁場環境下で使用し、超伝導、電荷秩序などの電荷とスピンの自由度が競合、共存した現象解明を"微少量試料測定"、"絶対値評価"、"外部環境制御"カロリーメトリーをキーワードに計画されたものである。 本年度は前半は、主として、2次元の電荷秩序型絶縁体θ-(BEDT-TTF)_2RbZn(SCN)_4塩を中心に測定を行った。M=Rb試料の急冷相は、195Kで1次転移をおこす前の電荷の揺らぎの大きな金属相を凍結させたものであり、約20mJK^<-2>mol^<-1>程度のγ項を与えることが見いだされた。金属相での状態密度に相当する寄与が乱れを伴いながらメゾスコピックなレベルで局在化して残っているものと考えられる。一方、徐冷相では、熱容量は非常に小さくなるものの完全にはギャップが開いておらず2-3mJK^<-2>mol^<-1>程度の係数をもつ温度に比例する項が存在することが見出された。局所フォノンが電荷密度と結合して、連続的な励起を形成している可能性を指摘した。 また、後半から2量体性が強く、電子状態が1/2フィリングとなる代表的なκ-型2:1を中心に超伝導転移付近での熱容量の跳びやピークの形状、さらには磁場印加により超伝導を壊した場合に得られる電子状態密度に比例したγ項、また超伝導になりながらもその状態中に残る正常状態での電子の状態密度に比例するγ^*項の振る舞いを系統的に調べることに着手した。低温のγ^*γ^<-1>から、Mott境界から離れ、T_cが低下するとともにその比が徐々に大きくなっていることが見いだされた。これは、超伝導相内部で本質的に超伝導成分と正常電子の成分が混在している可能性を示唆している。
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