研究概要 |
1,充填率1/4近傍の一次元電子系における不整合モット絶縁体状態 近年精力的に研究が行われ様々な興味深い現象が見出されている分子性導体は、主にドナーとアニオンの比が2:1の塩である。極最近、ドナーとアニオンの比が2:1から少しはずれ不整合となっている分子性導体、(MDT-TSF)X_n、(MDT-ST)X_n、(MDT-TS)X_n (X_は一価のアニオンであり、n【similar or equal】0.42-0.45)が合成され、その伝導特性や磁気的な性質が測定されている。結果は以下のとおりである。MDT-TSF塩、MDT-ST塩は常圧で金属的な挙動を示し4Kで超伝導体へ転移するが、これらに比べバンド幅が狭い(MDT-TS)(AuI_2)_<0.441>は、常圧において85Kで抵抗極小を示して絶縁化し、さらに50Kで反強磁性体へ転移する。また、X線散乱の実験から、これらの物質群ではドナー分子、アニオン分子ともに、それぞれ異なった周期で規則的に配列していることが観測されている。電子の充填率が格子と不整合であるにもかかわらず金属絶縁体転移がおこるのかを明らかにするため、不整合格子を有する一次元電子系の基底状態を調べた。その結果、アニオンからのポテンシャルを考慮すると、系は有効的に充填率が1/2となり、その結果絶縁体の基底状態を持つことが見出された。さらに、バンド幅を増加させることによって、基底状態は絶縁体から金属状態へ転移する。この結果は上に述べた物質群の金属絶縁体転移を定性的に説明する。 2.充填率1/4一次元分子性導体の電荷秩序状態のナイトシフトと核磁気緩和率 近年多くの分子性導体で電荷秩序状態が見出され、盛んに研究が進められている。その実験的証拠の一つとして、核磁気共鳴のスペクトルの分裂があげられる。これは電荷秩序の形成に伴ってもともと等価であった分子が非等価になったことに起因すると考えられている。しかしながら、実際電荷秩序が形成された場合、スペクトルが分裂するのか理論的には誰も考察していない。さらに充填率が1/2の場合には電荷秩序が形成されてもスペクトルは分裂しないことが示されている。したがって、実際充填率1/4分子性導体で見出されているスペクトルの分裂が電荷秩序に起因するものなのか理論的に明らかに必要がある。そのため、充填率1/4の一次元電子系を用いて考察した。確かに、電荷秩序が形成されると、スペクトルは分裂し、それに伴い核磁気緩和率は2成分となった。さらに。スペクトルの分裂幅や緩和率の差と電荷秩序の秩序変数との関係を議論した。電荷秩序の転移温度近傍ではこれらの量は電荷秩序の秩序変数に比例することが見出された。このように、充填率1/4の場合には核磁気共鳴は電荷秩序の実験的証拠となりうる。
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