分子性の電子伝導体の結晶は構成される分子の性質やその配列構造によって今までにはない特異的な伝導現象を示すことができる。特にCu-DCNQI系にみられるような有機π電子を主体とする非局在化した伝導π電子系に局在化した金属イオンのd電子スピン系が混在するような物質はわずかな物理的な圧力を与えたり、DCNQI骨格を重水素化した化学的圧力によって、特異な金属-絶縁体転移を示すことが知られている。本研究では金属Cuイオンと強力に配位結合できる新規の高電導性有機アクセプターの開発を行い、しかも、そのアクセプター骨格に電子吸引性供与性置換基を導入したり、分子間相互作用を制御できる官能基や置換基を導入することによって、意図的に配列制御した構造や電子状態をもつ、有機-無機複合伝導体を構築することに成功した。我々は全く新しい構造をもち、しかも金属Cuイオンに直接配位結合できるような分子アクセプター系として1に示したテトラアザナフタセン(TANC)骨格をもつものを見い出した。この1はCuイオンと配位結合することによって、1次元の配位高分子錯体を形成し、これが分離積層型に積み重なった構造をもつ単結晶を形成している。この結晶の電導度測定を行った結果、TCNQ-TTFの電導度にやや劣る75Scm^<-1>(300K)の電導度をもつ分子性高伝導体であることが明らかになった。この伝導性は半導体的挙動であるが、活性化エネルギーのプロットが珍しく曲線を示すため、これはd-π相互作用の結果であると結論した。詳細は本年度に理論計算してフェルミ面の構造を見てから判断したいと考えている。一方、カウンターイオンをかえることで摩擦によってスピン数が増えてくるおもしろい系を構築することにも成功した、
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