研究概要 |
有機導体(TMTSF)_2PF_6,(TMTSF)_2ClO_4は、擬1次元性のため低温で磁場誘起スピン密度波状態が現れ、ホール係数が量子化されることが知られている。(TMTSF)_2ClO_4は、徐冷した場合ClO_4イオンの配置が秩序化し、周期ポテンシャルを生じるために、さらに興味深い現象が起きる。我々は、以前にその場合についての理論的に考察した。最近、松永らは、冷却速度と磁場の強さをパラメータとする相図を約5テスラから15テスラの範囲で実験的に見いだした。また、宇治らは、約26テスラから45テスラの強磁場領域で、ホール係数が符号も変化しながら周期的に振動するするという新しい現象を見いだした。我々は、周期ポテンシャルの効果が小さくて摂動的に扱えるとする従来の理論ではこれらの実験を説明するのが困難であることを示し、現在、新しい理論を構築中である。 また、誘起擬1次元導体では、磁場の方向を回転させると電気抵抗が振動するという現象(Angle-dependent magnetoresistance, AMRO)が知られており、実験理論の両面から詳しい研究がなされてきている。フェルミ面の形状の効果で大まかなところは説明がつき、擬1次元系や擬2次元系のフェルミ面を測定する手段として有力であることが分かっている。しかし、伝導面内の電気抵抗にも振動が現れることや、振動の高次の項が大きいことなど、理論的に解明されていないことも多い。我々は、従来の理論では十分に考慮されていなかった電子間の相互作用を乱雑位相近似(RPA)で取り入れることによって、実験事実がよく理解できることを示した。電子間相互作用により、緩和時間・有効質量・状態密度などに磁場の方向と波数への依存性が表れ、それがAMROに影響することを示した。特にスピン密度波が現れる近傍において電子間相互作用の効果は無視できないことが示された。
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