分子性導体における複合機能化の観点から、新しい有機πアクセプター系伝導体の開発を試みた。銅錯体(DCNQI)_2Cuは強いπ-d相互作用を示す分子性導体として知られている。このDCNQIはpara-キノイド構造を有するπアクセプター分子である。昨年度の本研究ではortho-型の構造を持つDCNQI類縁体として、アセナフテキノイド構造を中心π系骨格とするDCNAを開発した。本年度は、ブロモ基等の導入によりアクセプター性の向上をめざした。ジブロモ体DBr-DCNAは、対応するアセナフテキノンのシアノイミノ化により合成に成功した。しかし、有機溶媒に難溶であるため低収率であった。また、電解還元法等により電気伝導性錯体の作製を試みたが、良質の結晶は得られなかった。 DCNQI系伝導体の対カチオンとして安定有機ラジカルTEMPOを導入したアンモニウムイオンを用いると奇妙な磁性を示す半導体が得られた。今回は、さらに磁性アンモニウムイオンとして、トリメチルアンモニオフェニル基(Me_3N^+-Ph-)およびトリメチルアンモニオメチル基(Me_3N^+-CH_2-)を持つニトロニルニトロキシドラジカル(NN)のアンモニウム塩を合成した。その過塩素酸塩を用いた電解還元法による錯体作製を試み、DMe-DCNQIおよびDBr-DCNQIとMe_3N^+-CH_2-NNの組み合わせで針状晶が得られた。これらは半導体的な伝導性を示すが、ほとんど非磁性であった。現在、他のDCNQIおよびDCNA系アクセプターとの錯体作製を試みている。
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