研究概要 |
有機伝導体は,温度・圧力・磁場の外部環境の変化で金属・絶縁体・超伝導などバラエティに富んだ物性変化を示す。そのような物性の出現のメカニズムを調べるために,圧力や磁場などの外部摂動を加えた状態での電子状態の知見が得られる高磁場・高圧下の赤外分光の方法論を確立し研究を行ってきた。現在では,温度3.5K,圧力5GPa,磁場14Tを同時に実現した赤外分光が可能になり,以下の成果が得られた。また,高磁場・高圧下での電子状態の理解を助けるために,常圧・低温での電子状態を,放射光を用いた励起エネルギー可変の角度分解光電子分光装置で調べるための準備を行い,現在では定常的な測定が可能になっている。 具体的な研究内容は以下のとおりである。擬二次元有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Brの超伝導・反強磁性絶縁体境界付近に生じる数10μmの大きさのドメイン構造の起源を調べるために,温度・磁場および冷却速度を変えた試料に対して赤外分光イメージングを行った。その結果,ドメイン構造は物質がもともと持っている組成の揺らぎかまたは局所的なひずみが原因で発生していることがわかった。(研究発表論文1番目) 重水素置換体κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Brは,基底状態が反強磁性絶縁体であるが,数MPa程度の低い圧力で超伝導体へ転移する。この圧力によるモット転移は,熱力学的な物性は一次転移的であるが,本研究で電子状態の変化を観測したところ,転移に幅が生じていることがわかった。このことは,電子状態の微妙なバランスにより劇的な物性変化が現れていることを示している。
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