結晶金属の変形挙動とアモルファス金属の変形挙動は、大きく異なる。結晶金属においては、弾性限以下で応力と歪みは比例関係を示すが、アモルファス金属においては、応力と歪みは比例関係を持たず擬弾性を示す。アモルファス金属は、塑性加工による加工硬化は示さない。このように、アモルファス金属の変形・破壊挙動は、結晶金属と大きく異なる。バルク金属ガラスにおいても、本質的にはアモルファス金属と同様の機械的性質を示すことが徐々に明らかになりつつある。しかし、バルク金属ガラスの変形・破壊挙動の微視的なメカニズムに関しては、未解明の点が多く残されている。 本研究の目的は、比較的変形量が少ない変形領域において、金属ガラスの変形に伴う原子配列の変化を直接観察することによって、金属ガラス独特の擬弾性挙動の微視的メカニズムを解明しようとするものである。 Cu_<50>Zr_<50>金属ガラスを通常の単ロール法によって、作成した。試料は、厚さ約20μm、幅約2mmのリボン状のものである。今年度の科研費によって、EXAFS測定装置に適合した引張り装置を設計・作成した。この装置を使用してCu_<50>Zr_<50>金属ガラスに引張り変形量を段階的に増加させながらEXAFSの測定を行った。EXAFSの測定は、ZrのK-吸収端(17998.9eV)付近約1000eVの範囲で通常の透過法によって行い、得られた信号をフーリエ変換し、Zr原子まわりの動径分の変化を求めた。 引張り変形の少ない第一段階において、引張り変形量の増加に伴い、Cu-Zr原子間距離が増加し、Zr-Zr原子間距離が減少することが観測された。変形量が徐々に増加し、ある限界量に達すると、Cu-Zr原子間距離、Zr-Zr原子間距離のいずれも、変形が無い状態に突然戻った。そこから引張り変形量が増加するのに伴い、また、変形量の少ない第一段階と同様にCu-Zr原子間距離が増加し、Zr-Zr原子間距離が減少することが観測された。現在、他の測定結果も含め、Cu_<50>Zr_<50>金属ガラスに引張り変形挙動の微視的メカニズムについて理論的な検討を行っている。
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