研究概要 |
TiNi系形状記憶合金は、医療デバイスへの応用が急速に拡大しており、生体内環境におけるNiイオンの溶出を抑える表面処理法の開発が急務である。本研究ではショットピーニングによる表層非晶質化の条件、非晶質化による耐食性の変化を調べ、その機構を明らかにすることで生体適合性の向上を目指す。今年度は昨年度行った鋳鋼,WCショットに加え,鉄系金属ガラスショットを用いたピーニングによる微細組織の変化,及び耐食性の変化を明らかにすることに重点をおいた研究を行った。 金属ガラス製のショットを用い、空気式ショットピーニング装置を用いて噴射圧0.4MPa,0.7MPaで10秒から120秒までピーニングを行った。鋳鋼・WCと比べて金属ガラスショットの方が短時間で組織微細化が進むことが明らかになった。しかし噴射圧が高い場合は表面の摩耗が著しいことも明らかになった。 また,加工層の断面TEM観察の結果,鋳鋼で10秒程度のピーニングで表層約100nmの領域が非晶質/ナノ結晶化すること,またその下層のB2相には多量の{114},{112}変形双晶が生成することが明らかになった。別な試料のTEM観察では{114}面に平行な非晶質層の生成が確認された。以上のことより,TiNiの強加工による非晶質化には従来から言われていた転位密度の上昇のみならず,変形双晶の生成が関与する場合もあると考えられる。 また,ショット後(鋳鋼,0.4MPa)の試料についてその耐食性を評価するため,1規定の硝酸水溶液中での分極曲線測定を行った。その結果,ショット前の試料と比較すると,不動態保持電流密度が一桁程度低下し,耐食性の向上が確認された。
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