研究概要 |
アモルファス窒化炭素(a-CN_x)材料は最近の研究で、低仕事関数を有することが見出されている。そのためトンネル効果を利用した電界放出素子としての応用が期待されている。本研究では大きなβをもつ導電性基材に大気開放型CVD装置を用いて作成したZnO : Alウイスカー単結晶を用い、小さなφをもつ物質としてa-CN_x:Hまたはa-CN_x:O:Hをコーティングした構造体を用いる。反応系から(制御不能な)水分を除いた上で、あらためて外部からH_2OやNH_3などの水素含有分子を導入することにより、a-CN_x材料の水素量を制御し低仕事関数を実現するための反応場設計を行なうことを目的とする。本年度はa-CN_x:Hまたはa-CN_x:O:H材料の水素量制御方法を確立し、これらの材料の構造解析を行なった。 BrCNやH_2Oの圧力を制御する必要があるので、そのことが可能なECRプラズマCVD法を採用した。He+BrCNの系で作成したa-CN_x膜は剥離しやすいという問題がない。そこで、本研究ではHe+BrCN混合気体のECRプラズマを用い、そこに微量のH_2Oを混入させてa-CN_x:H膜を作成し、膜中の水素量を制御することとした。マイクロ波の出力は70Wとし、Heの圧力は3.0mTorr、BrCNの圧力は2.0mTorrに固定、H_2Oの圧力は0-0.6mTorrの範囲で変化させた。H_2Oの圧力が0.6mTorrを超えると、プラズマが消失した。 作成されたa-CN_x:H膜の赤外吸収スペクトルを測定した結果、次のことがわかった。H_2Oの分圧が0.0-0.6mTorrに増加するにつれ、3300cm^<-1>付近のOHおよびNH_y(y=1,2)伸縮振動に帰属される吸収強度が増大した。したがって、反応系に導入される水分量によって膜中の水素量が制御されることが確かめられた。特に、脱水に用いたP_2O_5とチャンバーとの距離が短いと、水素量制御に有効であった。 a-CN_x:H膜のラマンスペクトルを測定した結果、次のことがわかった。H_2Oを導入しない場合にはグラファイト構造のE_<2g>振動モードに起因するGバンドが1550cm-1付近に、同じ振動モードの粒界部分に起因するDバンドが1350cm-1付近にそれぞれ観測された。これらのパンドはH_2Oを導入することにより消失した。このことから、H_2Oを導入せずに作成されたa-CN_x膜はnmのオーダーの2次元的な中距離骨格構造が形成されており、H_2Oを導入して作成されたa-CN_x:Hではそのような構造が消失することを示している。
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