研究概要 |
本研究では、HeのECRプラズマCVDにより作成したアモルファス水素化窒化炭素(a-CN_x:H)膜の水素量と電界放射との相関を調査し、電界放射特性の最適化を目的としてこH_2O導入量を制御してa-CN_x:H膜を作成し、電界放射特性を調査した。次に高分解能発光分光測定とプローブ測定を行い、プラズマ中の反応機構について検討した。 (1)a-CN_x:H膜の作成 本研究では、a-CN_x:H膜中の水素量を制御出来る成膜プロセスが重要となる。そこで希ガス及びBrCNの導入ライン上にP_2O_5を設置する事で、原料ガスに由来する制御不能なH_2Oを出来るだけ除去し、a-CN_x膜を作成した。a-CN_x膜のIRスペクトルの結果から、水素終端構造(-OH基、-NH基)に起因するピークがほぼ見られない事から、P_2O_5による脱水及びHeプラズマによる洗浄により、原料や装置を由来とする水を抑制出来る事が確認された。次に、常温におけるH_2Oの蒸気圧を制御(P(H_2O)=0.2〜0.6mTorr)し、反応系内に導入してa-CN_x:H膜を作成した。a-CN_x:H膜のIRスペクトルの結果から、水素終端構造に起因するピークが確認され、更にH_2Oの導入圧力の増加に伴いピークの強度が大きくなる傾向も確認された事から、H_2Oの導入圧力を制御する事で水素終端の密度を制御出来る事が分かった。 (2)a-CN_x:H/ZnO:Alウィスカー冷陰極の電界放射特性 ZnO:Alウィスカー冷陰極に水素終端構造の密度を制御したa-CN_x:H膜を被覆した素子について電界放射測定を行った。Fowler-Nordheimの理論式に基づき、測定結果から仕事関数を算出すると、P(H_2O)の増加に伴い仕事関数が4.7〜1.9eVまで変化した。この仕事関数の変化は、終端官能基が形成する双極子モーメントの方向と大きさに依存している。更にP(H_2O)の増加に伴い仕事関数が減少している事からIRスペクトルの結果と合わせて解釈すると、水素終端の数密度にも依存している事がいえる。 以上のa-CN_x:H膜の構造解析及び電界放射測定の結果から、作成したa-CN_x:H膜において、最も小さい仕事関数1.9eVとなったP(H_2O)=0.6mTorrの条件が今回用いた成膜プロセスの最適条件となった。 (3)プラズマ中反応機構の検討 本研究ではプラズマ中の原料の解離励起反応を用いている。そこで、反応糸において高い強度で観測されるH_αとCN(B^2Σ^+-X^2Σ^+)遷移の発光スペクトルについて高分解能発光分光測定を行った結果、H_αの発光強度I_<H_α>はP(H_2O)の増加に伴い直線的に増加した。CN(B^2Σ^+-X^2Σ^+)遷移の発光強度I_<CN(B)>はH_2Oを導入する事で大きく減少し,更にP(H_2O)の増加に伴い緩やかに減少した。次にプラズマの状態を把握するためにプローブ(探針)測定を行った結果、H_2Oを導入する事で電子密度は大きく減少し、P(H_2O)の増加に伴い緩やかに減少した。電子温度については、P(H_2O)の増加に伴い直線的に増加した。 これらの結果を総合的に解釈した結果、BrCN及びH_2OのCN(B^2Σ^+-X^2Σ^+)遷移とH_αの発光は、He^+からの電荷移動及び電子衝撃によるイオン化とそれに引き続く自由電子との再結合反応によって進行していると結論された。
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