本研究では、生体分子周りの水分子の配向運動特性を誘電緩和測定によって定量的に解析し、生体分子間相互作用における水の役割の解明をめざす。とくに、アクチンフィラメントや尿素の周りに発見されたハイパーモバイル水層の誘電緩和特性の温度依存性および重水・軽水依存性をマイクロ波領域で定量的に明らかにすることを目的とした。 まず、尿素水溶液の誘電スペクトル測定を軽水中で測定し、尿素分子の配向緩和周波数と自由水分子の配向緩和周波数、それにハイパーモバイル水の緩和周波数をそれぞれ分離して求めることができた。また、尿素の軽水および重水中の誘電スペクトル測定を行った結果、ハイパーモバイル水の誘電緩和周波数は軽水中と重水中で5℃から20℃の範囲でほぼ同一の温度依存性の曲線上に観測された。軽水を重水に置き換えることで、ハイパーモバイル水の誘電緩和周波数が低下したこと、および、温度を下げることと軽水を重水に置き換える操作がほぼ同様の結果をもたらしたことから、尿素と水分子間あるいは尿素周りの水分子間の水素結合ネットワークが密になるような構造変化が起こっている思われる。 ハイパーモバイル水を形成するヨウ化カリウムの水溶液の測定は、7GHz付近に尿素のような分子配向の緩和吸収ピークがないため、ハイパーモバイル水の緩和周波数や誘電緩和強度の温度依存性をより定量的に測定できると考え、その実験を行った。その結果、ハイパーモバイル水の活性化エネルギーは自由水の活性化エネルギーの80%となる15.5kJ/molを得た。 また、アクチンフィラメントの10℃から30℃における誘電スペクトル測定と各温度におけるCDスペクトル測定(200nm-300nm)を行った。CDスペクトル測定の結果はこの範囲ではアクチンの2次構造にはめだった変化はないことを確認した。現在アクチンフィラメントの水和状態解析を進めている。
|