水溶液中における生体関連分子の挙動を明らかにするためには、生体関連分子が有する官能基毎の水和構造を部分構造レベルで解明する必要がある。しかし、溶液中では様々な分子間構造が互いに重なり合うため、単一の回折実験では複雑な生体分子の水和構造を明らかにする事は困難であった。本研究では、代表的な生体関連分子に対して同位体置換法中性子回折実験を行い、生体関連分子の官能基毎の水和構造を実験から明らかにした。本研究で構造解析を行った溶液系は以下のとおりである。 ・4mol%安息香酸リチウム重水溶液に対して、^6Li/^7LiおよびH/D(ベンゼン環水素)同位体置換法中性子回折実験により、溶液内のLi^+の水和構造を求め、およびベンゼン環水素原子周囲の水和構造をはじめて明らかにした。 ・10mol%炭酸カリウム重水溶液に対して^<12>C/^<13>C同位体置換法中性子回折実験を行い、炭酸イオン周囲には約9個の水分子が水素結合を形成している事を見出した。 ・18mol%アラニン酸リチウム重水溶液に対して^6Li/^7Li、^<14>N/^<15>NおよびH/D同位体置換法中性子回折実験を行い、溶液中のアラニン酸イオンのアミノ基N原子、メチル基H原子、メチン基H原子周囲の水和構造の詳細を明らかにするとともに、Li^+…アラニン酸イオン間構造に関する知見を得た。 ・15mol%ギ酸ナトリウム重水溶液に対して^<12>C/^<13>CおよびH/D同位体置換法中性子回折実験を行い、カルボキシル基周囲の水和構造を明らかにした。 ・15mol%尿素重水溶液に対して^<12>C/^<13>C同位体置換法中性子回折実験を実施し、尿素分子のカルボニル基周囲の水和構造をはじめて明らかにした。 ・5mol%グルタミン酸ナトリウム重水溶液に対して^<14>N/^<15>N同位体置換法中性子回折実験を行い、グルタミン酸分子のアミノ基周囲の水和構造に関する詳細な知見を得た。
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