本研究は、1分子計測・蛍光測定の技術と非平衡熱力学を用い、蛋白質アンフォールディングの力学応答と蛍光変化を精密に測定し、最新のミクロ非平衡統計力学の知見を用いてエネルギー・ランドスケープに関する新たな知見を得ることを目的とする。初年度は以下の成果を得た。 1.DNAの凝縮転移は、分子内相転移の例として興味深い。我々は、DNAにインターカレートする蛍光色素を用い、多価イオンがDNAに凝集する際に蛍光色素との交換が起こることを、蛍光強度の変化から定量することに成功した。その結果、凝縮の前後で多価イオンと色素の解離定数が変化することを明らかにした。 2.SNase(Staphylococcal Nuclease)はα-β構造を持ち、disulfide結合やシステイン残基を持たず、比較的柔らかく単純な構造を持っていることから蛋白質フォールディングの標準モデルとして用いられている。AFMにより伸縮の周波数を変化させてSNaseの応答を測定し、フォールディングの速度過程に関する情報を得ることを目指して、引き伸ばしと収縮の速度が任意に変えられるAFMを自作した。SNaseの両末端にシステインを付加したものを用意し、金コートしたガラス面とカンチレバーの間に付着させ、伸びと力の応答曲線を測定したところ、stick-release状の応答が見られ、伸縮の速度を遅くするとstick-releaseが消える傾向が観測された。これは、ゆっくり収縮させることでフォールディングが起こっていることを示唆している。SNaseのアンフォールディングには2つの経路があることが知られているので、応答の速度依存性にこれらの性質が現れるかどうか、さらに実験を継続してゆく。
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