タンパク質を構成するアミノ酸残基の中でプロリン残基は、トランスもシスも容易に取りうる点で特異な残基である。近年、プロリン残基の構造異性化が、細胞での様々なスイッチとして働くことが明らかになってきた。また、異性化酵素(PPIase)による制御機構が存在することも明らかになり、今後は多方面への展開が予想される。ところが、PPIaseの機能に関しては、反応機構でさえ決定できていないのが現状である。そこで、本研究では、PPIaseの機能に注目し、活性部位に導入した網羅的変異を手がかりに、PPIaseが酵素活性を発現するための必要条件を解析した。 対象には、ヒトFKBP12(hFKBP12)を選んだ。hFKBP12は既知のPPIaseの中で最小のものなので、hFKBP12をPPIase機能の最小構造単位とみなせるからである。結晶構造によれば、活性部位は、Asp37、Arg42、Phe46、Val55、Trp59及びTyr82の6つのアミノ酸残基から構成されている。そこで、これら6つのアミノ酸残基をそれぞれ他の19種類のアミノ酸に置換して、PPIase活性の変異による影響を手がかかりにした。 その結果、PPIase活性はどのような置換によっても消失することはなかった。また、側鎖を持たないGlyに置換してもなおPPIase活性が観測されたことから、PPIase活性には側鎖が必ずしも必須ではないことが示唆された。そこで、活性部位の6個のアミノ酸残基の全てをGlyに置換した変異体を作成してPPIase活性を測定したところ、野生型と同等の活性を保持することが確認された。これらことから、PPIase活性発現のための必要条件は、活性部位を構成するアミノ酸残基の主鎖配置にあると結論づけられた。
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