研究概要 |
水中での極性相互作用を評価するには疎水性効果や静電相互作用を最小に抑えた系を選ばねばならない。無荷電・高極性のグリコクラスターを用いる水中での相互作用詳細の解明を水の役割を中心に検討し、以下の成果を得た。(1)グリコクラスターの水中でのリン酸イオンによる凝集がエントロピー駆動(ΔH^0=11.2kJmol^<-1>,ΔS^0=111JK^<-1>mol^<-1>,K=8.5x10^3M^<-1>)であることを明らかにした。自由度が抑制された糖クラスターの回りには多くの水分子が強く束縛され、これがリン酸イオンとの結合により解放(脱溶媒和)されるのが駆動力であると結論できる。また、過塩素酸イオン、硫酸イオンなどの正四面体(sp^3)アニオンも凝集活性を示すことから、これらアニオンがテトラヘドラルにネットワークされた水分子に置き換わることが明らかとなった。(2)グリコクラスターの末端糖鎖を変化させても熱力学量には大きな変化は見られないが、凝集体の表面電位には顕著は差が認められ(セロビオースの場合は〜0mV、マルトースの場合は-15mV)、後者(マルトース)の場合にはリン酸イオンが表面に露出していることが分かる。グリコクラスターが核酸をコートしたグリコウイルスは糖依存的(特にマルトースの場合)に会合することが明らかになっていたが、うえの知見はこれを解明するための大きな手がかりとなるものである。(3)糖クラスターの水和ゲル形成に関し、細胞外マトリックスに存在するプロテオグリカンを模したコンドロイチン硫酸あるいはデキストラン硫酸クラスターを合成し、これがタンパクと強く相互作用すること、細胞接着を著しく阻害すること、また、抗血栓作用を有することなどを明らかにした。
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